年が明けて、山の自治会は、第三者委員会を置きました。
きっかけは、炭焼きの人からの相談でした。炭焼きの人は、あの投稿のあと、コメント欄をしばらく閉じて、窯の火だけを流していました。
聞き取りは、二月に行われました。当事者のうち三軒が同じ山に住んでいるので、場所は山の外の、駅前のホテルの宴会場になりました。入口の札には、「山の件(事実確認中)」とありました。前の日には、同じ部屋で、どこかの会社の会見があったそうです。
田貫さんと宇佐美さんは、廊下の離れた椅子で、順番を待ちました。

炭焼きの人は、聞かれたことに、一つだけ答えました。
「わたしは、炭を焼いていただけです」
田貫さんは、動機を聞かれて、少し考えてから答えました。
「配信が、楽しそうだったので」
宇佐美さんは、八枚の写真を、一枚ずつ示されました。細い煙の写った一枚のところで、委員長の手が止まりました。宇佐美さんは、その一枚をしばらく見てから、言いました。
「確かめたのは、七枚まででした」
春に、報告書が出ました。公表版の抜粋は、次のとおりです。
山の配信をめぐる一連の事案に関する調査報告書(公表版・抜粋)
関係者の氏名は伏せてある。
認定した事実
- 匿名のアカウントによる書き込みと、謝罪の DM は、北の斜面の配信者によるものであった。本人も認めている。謝罪の時点で反省していたかは、確認できなかった。
- なりすましによる唐辛子味噌の通販は、事実である。発送された味噌は本人の自家製で、代金は全額返金済みである。
- ふもとの視聴者による特定は、おおむね正しかった。投稿は、匿名のアカウントから行われた。ただし、並べられた写真八枚のうち一枚は、山の上で炭焼きを配信している方のものであった。稜線が同じであったため、混ざったものと考えられる。この方は、本件と無関係である。
- 謝罪文のひな形は、よく効いた。効かせる意図があったかは、確認できなかった。
- ふもとの視聴者は、規約と、警告の回数と、許可の有無を知ったうえで、並んでの配信を勧めた。ふもとの視聴者からの通報は、確認されなかった。
評価
- 撮影係によるブロックと通報は、適切であった。配信サービスへの撮影係の回答は、事実のとおりであった。
- 南の斜面の配信者がブロックを解いたことは、責められない。
- ふもとの視聴者が、許可のないことを告げずに並んでの配信を勧めたことは、規約違反ではないが、適切とはいえない。
再発防止策
- 北の斜面の配信者:自分の名前で配信する。
- ふもとの視聴者:公表の前に、一枚ずつ確かめる。
- 撮影係:ブロックの理由を、記録に残す。
- 南の斜面の配信者:DM は、撮影係と二人で開く。
第三者委員会 委員長 弁護士(ふもとの町)
公表版の PDF は、自治会長が、電子回覧板に流しました。
氏名は伏せてあります。山には、四軒しかありません。
既読は、すぐに「4/4」になりました。

田貫さんは、新しいチャンネルを、一から始めていました。名前は、「田貫」でした。登録者は、今のところ三人です。田貫さんは、その晩も八時に配信を始めました。
山の上の炭焼き小屋では、コメント欄がまた開いていて、窯の火が映っていました。
同じ夜、おばあさんは、縁側で配信を再開しました。
カメラを回したのは、おじいさんでした。画面には、いつものように手しか映りませんでした。コメント欄に、「カメじいの手だ」が一つ流れました。おじいさんは、画面の外から、公表版の要約を読み上げました。おしまいまで、全部読みました。
読み終えると、おばあさんは湯のみを置いて、唐辛子味噌の瓶のふたを開けました。コメント欄に、一行流れました。
「どこで買えますか」
「通販も、しておりません」
アカウントは、いくつでも作れる。自分は、一人しかいない。








