原作:かぐや姫第一話 / 全五話 ・ 約4分

初任給は、
私より高くしておきました。

連載「月への転職、決めました。」
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月への転職、決めました。
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約4分
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挿絵:竹林の、根もとの光る竹の中に座る小さな女の子と、驚く翁

むかしむかし、ある竹林のそばに、竹取の翁という人が住んでいました。

翁は、もとは竹職人でした。野山の竹を取っては、かごや器や箸を作って暮らしていましたが、作った器で何かを出す場所がほしくなり、竹林の見える古い家を直して、カフェを開きました。店の名前は「竹取」。器も、照明の笠も、縁側の簾も、翁の手作りでした。帳簿は、媼がつけていました。

ある朝、翁が竹筒のドリンク用の竹を取りに行くと、根もとの光る竹が一本ありました。切ってみると、中に三寸ほどの女の子が座っていました。翁が店に連れて帰ると、媼は帳簿から顔を上げました。

「竹から、人が」
「出てきましたね」
「うちの子にしようか」
「帳簿に、一人増やしておきます」

女の子は、すくすく育ちました。三か月で大人になり、同じ三か月で、店の仕事をすべて覚えました。抹茶を点て、竹かごのランチを詰め、レジを締め、竹の器を割らずに洗えるようになりました。あまりに明るく光るので、かぐや姫と名付けられました。

給与は、三か月目に、見習いの額で決まりました。三か月で一人前になる人がいるとは、誰も思っていなかったからです。

それからというもの、翁が竹を切るたびに、節の中から黄金が出てきて……はきませんでした。竹の中は、いつも空っぽでした。

かぐや姫は毎晩、閉店後に一人で翌日の仕込みを済ませると、竹林の写真を一枚、店のアカウントに投稿しました。朝の竹、雨の竹、雪をかぶった竹。投稿は、毎晩同じ時刻でした。

半年たつと、週末の門の前に行列ができるようになりました。行列は竹林の小道を抜けて、バス停まで続きました。翁はその列を眺めて、「竹から、黄金が出てきたようだ」と言いました。それから、竹かごを二十個、新しく編みました。媼は、帳簿のページを足しました。

平日は、縁側の席でノートパソコンを開く客が増えました。いちばん奥の席では、若い男が一人と、犬と猿と雉が、並んで同じ会議に出ていました。カメラがついているのは、若い男の画面だけでした。

挿絵:竹林カフェの縁側の席で、並んでリモート会議に出る若い男と犬と猿と雉

かぐや姫が仕込みを終えて写真を上げるころ、竹林の上には、月が出ていました。

人気が出ると、人手が足りなくなりました。翁は、新卒を一人採ることにしました。店で人を採るのは、初めてでした。かぐや姫は、竹から来たからです。

翁が求人サイトに申し込むと、担当者からメールが届きました。翁が手を拭いているあいだに、媼が読み上げました。

「新卒の給与は、いくらにしようか」
「今は、これくらい出さないと来てくれないそうです」
「これくらい、とは」
「数字は、書いてありません。相場で、だそうです」

翁は、かぐや姫を呼びました。

「求人票を、作ってもらえるかい」
「はい」
「給与の欄も」
「相場を、調べます」

その夜、かぐや姫は仕込みを済ませてから、カウンターでノートパソコンを開きました。

職種は「カフェスタッフ(新卒)」。仕事内容は「抹茶、竹かごのランチ、竹筒のドリンク。竹の器は、割らずに洗えるようになるまで教えます」。かぐや姫は、自分が三か月で覚えたことを、一年かけて覚えればよいように書きました。最後に「竹から生まれていなくても、歓迎します」と書き足しかけて、消しました。

給与の欄は、近くの店の求人を三十件ほど調べて決めました。抹茶の仕入れ値は、この一年で二度上がっていました。店の抹茶を五十円値上げするお知らせを書いたのも、かぐや姫でした。初任給の相場は、それよりも速く上がっていました。

かぐや姫は、初任給の欄に数字を打ち込みました。それから、自分の給与明細を開いて、横に並べました。かぐや姫の給与明細は、三か月目から、ずっと同じ数字でした。見直す日が来る前に、店が忙しくなったからです。

帳簿をつけていた媼が、画面をのぞきこみました。

「その金額で、出すのかい」
「相場です」
「……あんたより、多いね」
「二万円、多いです」

媼は何か言いかけて、帳簿を閉じました。かぐや姫は、もう一度計算し直しました。

挿絵:閉店後のカウンターで、求人票と給与明細を並べるかぐや姫と、帳簿を手にする媼

「計算は、
合っています」

かぐや姫は求人票を公開し、いつもの時刻に、竹林の写真を一枚投稿しました。その夜も、竹林の上には月が出ていました。

翌朝までに、求人票には応募が三件届いていました。

— 第一話 おわり —第二話 三か月で、覚えました。 →
次の話 ・ 第二話三か月で、覚えました。 →

この連載の話

  1. 第一話初任給は、私より高くしておきました。
  2. 第二話三か月で、覚えました。
  3. 第三話数字が分かったので、残念ではありません。
  4. 第四話計算は、そこまでにしました。
  5. 第五話パーカーは、引き継ぎのあとで着ます。

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