原作:桃太郎第二話 / 全四話 ・ 約3分

犬、猿、雉。
全員カメラオフ

連載「鬼ヶ島、フルリモートで攻略します。」
連載
鬼ヶ島、フルリモートで攻略します。
テーマ
働き方
読了
約3分
公開
挿絵:黒い四角が並ぶ会議の画面で、一枠だけ映る桃太郎

株式会社ももたろうでは、毎朝九時に朝会を開くことになりました。

「おはようございます」

桃太郎があいさつすると、画面には黒い四角が三つ並びました。犬はミュートのまま、肉球のかたちの反応を一つだけ押しました。猿は「背景が重くて、パソコンが熱くなるので」と言ってカメラを切り、南国の浜辺はそれきり見られなくなりました。

桃太郎は、雉にだけ頼んでみることにしました。

「せめて朝会のあいだだけでも、カメラをオンにしてもらえませんか」
「契約書を確認しましたが、記載がありません」
「では、どうすれば」
「カメラオンは、別途お見積もりです」

桃太郎が契約書の PDF を開くと、たしかにどこにも書いてありませんでした。

顔が見えないと、みんなが本当に働いているのか、桃太郎には分かりません。その日の朝会は七分で終わりました。黒い四角は、最後まで三つでした。

その夜、桃太郎が眠っているあいだも、犬は起きていました。番犬時代に鍛えた夜勤の勘で、村のサーバーを見張っていたのです。

明け方、Slack に長い報告が届きました。

「午前二時十四分、角の生えた不審なアクセスあり」
「午前二時三十一分、同じ相手が帳簿のフォルダを開こうとして、失敗」
「午前三時二分、パスワードを『おにおにおに』で三回試して、失敗」
「以上です。わん」

挿絵:真夜中、ノートパソコンで報告を打つ犬

会議ではひとことも話さない犬は、文字になると驚くほど饒舌でした。桃太郎は報告を三回読み、どうして朝会では話さないのかと、Slack でたずねてみました。返事はすぐに来ました。

「話すと、吠えてしまうので」

桃太郎は、肉球の反応を一つだけ返しました。

鬼と話をするには、まず提案資料が要ります。雉は資料の中身を一晩でまとめ、見た目だけを外に頼むことにしました。注文書には「色は落ち着いたもの。文字は大きく。鬼にも読める言葉で」とありました。

発注先は、山あいに住むフリーランスのデザイナー、つうでした。つうは見積もりを出したあとで、条件を一つだけ付けました。

「納品前に、覗かないでください」

途中経過の共有も、進捗の確認もなし、ということでした。雉は「納期を守っていただけるなら」とだけ答えました。

三日のあいだ、つうからは何の連絡もありませんでした。猿はチャットに「本当に作ってるんですかね」と打ちかけて、消しました。

挿絵:山あいの一軒家の障子に映る、ノートパソコンに向かう鶴の影と、縁側の白い羽根

四日目の朝、約束の時刻ちょうどに納品のメールが届きました。資料は、見たこともないほど美しく仕上がっていました。添付ファイルの最後に、白い羽根の画像が一枚ついていましたが、誰も理由をたずねませんでした。雉は、請求書の金額も見積もりのとおりだったと報告しました。

いよいよ鬼ヶ島です。ところが、鬼ヶ島の連絡先は誰も知りませんでした。

見つけてきたのは猿でした。柿の木に登るのと同じ要領で、鬼ヶ島の会社のサイトを上から下までたどり、いちばん下の小さな文字の中に、問い合わせ先を見つけたのだそうです。口コミの欄には「対応は早いが、時間帯が独特」とありました。

おじいさんは今度も「船は」と言いかけましたが、桃太郎が先に答えました。

「会議の案内を送ります」

件名は「お預かりいただいているデータについて」。所要時間は三十分、場所はオンライン。候補の日時を三つ添え、最後に、つうの資料を添付しました。

返事は、その日も次の日もありませんでした。

三日目の午前三時、桃太郎のスマートフォンが一度だけ光りました。通知には「承諾しました」とだけありました。承諾された日時は、桃太郎が出した三つの候補のどれでもなく、来週の午前二時でした。

挿絵:午前三時、月夜の部屋で眠る桃太郎の枕元で、一度だけ光ったスマートフォン

Slack では、起きていた犬がひとこと「わん」と書きました。

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この連載の話

  1. 第一話きびだんごは、福利厚生です。
  2. 第二話犬、猿、雉。全員カメラオフ
  3. 第三話鬼ヶ島、時差あり
  4. 第四話めでたし、めでたし(議事録より)

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