株式会社ももたろうでは、毎朝九時に朝会を開くことになりました。
「おはようございます」
桃太郎があいさつすると、画面には黒い四角が三つ並びました。犬はミュートのまま、肉球のかたちの反応を一つだけ押しました。猿は「背景が重くて、パソコンが熱くなるので」と言ってカメラを切り、南国の浜辺はそれきり見られなくなりました。
桃太郎は、雉にだけ頼んでみることにしました。
「せめて朝会のあいだだけでも、カメラをオンにしてもらえませんか」
「契約書を確認しましたが、記載がありません」
「では、どうすれば」
「カメラオンは、別途お見積もりです」
桃太郎が契約書の PDF を開くと、たしかにどこにも書いてありませんでした。
顔が見えないと、みんなが本当に働いているのか、桃太郎には分かりません。その日の朝会は七分で終わりました。黒い四角は、最後まで三つでした。
その夜、桃太郎が眠っているあいだも、犬は起きていました。番犬時代に鍛えた夜勤の勘で、村のサーバーを見張っていたのです。
明け方、Slack に長い報告が届きました。
「午前二時十四分、角の生えた不審なアクセスあり」
「午前二時三十一分、同じ相手が帳簿のフォルダを開こうとして、失敗」
「午前三時二分、パスワードを『おにおにおに』で三回試して、失敗」
「以上です。わん」

会議ではひとことも話さない犬は、文字になると驚くほど饒舌でした。桃太郎は報告を三回読み、どうして朝会では話さないのかと、Slack でたずねてみました。返事はすぐに来ました。
「話すと、吠えてしまうので」
桃太郎は、肉球の反応を一つだけ返しました。
鬼と話をするには、まず提案資料が要ります。雉は資料の中身を一晩でまとめ、見た目だけを外に頼むことにしました。注文書には「色は落ち着いたもの。文字は大きく。鬼にも読める言葉で」とありました。
発注先は、山あいに住むフリーランスのデザイナー、つうでした。つうは見積もりを出したあとで、条件を一つだけ付けました。
「納品前に、覗かないでください」
途中経過の共有も、進捗の確認もなし、ということでした。雉は「納期を守っていただけるなら」とだけ答えました。
三日のあいだ、つうからは何の連絡もありませんでした。猿はチャットに「本当に作ってるんですかね」と打ちかけて、消しました。

四日目の朝、約束の時刻ちょうどに納品のメールが届きました。資料は、見たこともないほど美しく仕上がっていました。添付ファイルの最後に、白い羽根の画像が一枚ついていましたが、誰も理由をたずねませんでした。雉は、請求書の金額も見積もりのとおりだったと報告しました。
いよいよ鬼ヶ島です。ところが、鬼ヶ島の連絡先は誰も知りませんでした。
見つけてきたのは猿でした。柿の木に登るのと同じ要領で、鬼ヶ島の会社のサイトを上から下までたどり、いちばん下の小さな文字の中に、問い合わせ先を見つけたのだそうです。口コミの欄には「対応は早いが、時間帯が独特」とありました。
おじいさんは今度も「船は」と言いかけましたが、桃太郎が先に答えました。
「会議の案内を送ります」
件名は「お預かりいただいているデータについて」。所要時間は三十分、場所はオンライン。候補の日時を三つ添え、最後に、つうの資料を添付しました。
返事は、その日も次の日もありませんでした。
三日目の午前三時、桃太郎のスマートフォンが一度だけ光りました。通知には「承諾しました」とだけありました。承諾された日時は、桃太郎が出した三つの候補のどれでもなく、来週の午前二時でした。

Slack では、起きていた犬がひとこと「わん」と書きました。


