雉の議事録の、決定事項の欄には「なし」とだけ書いてありました。
そこで次の週、二回目の会議が開かれました。時刻は、今度も午前二時でした。いちばん先に入っていたのは、やはり犬でした。会議は五十八分で終わり、議事録は、その朝も朝会の一分前に届きました。雉が書いたのは、次のとおりです。

村のサーバーの件 第二回定例 議事録
- 日時:午前二時〜二時五十八分(鬼ヶ島時間 午後二時〜二時五十八分)
- 形式:オンライン
- 出席:
- 村の代理 株式会社ももたろう 桃太郎(カメラオン)、犬(カメラオフ、ミュート)、猿(カメラオフ)、雉(カメラオフ)
- 鬼ヶ島 鬼九名(カメラオン、角は枠外)
- 記録:雉
議題
- データ返却について
- 村のサーバーの保守契約について
- その他
議事の経過
(一)データ返却について
- 鬼ヶ島より、データは前回の会議で引き続きお預かりする方向になった、との認識が示される。
- 雉より、前回議事録の決定事項は「なし」である旨を指摘。
「議事録にないことは、
決まっていません」
- 鬼ヶ島は九名で協議し、その場で了承。
- 返却の対象は、前回読み上げのあった一覧のとおり。村の帳簿三十年分、村祭りの写真四千枚、おじいさんの将棋の棋譜八百十一局、ほか。
- 村側の原本は前回の「整理」により残っていないため、鬼ヶ島のサーバーから村のサーバーへ戻す。
- 浦島太郎様の未読メール三万件の扱いを確認。
(二)村のサーバーの保守契約について
- 鬼ヶ島より「月額保守料金のご案内」の再提示あり。
- 雉が料金表を一行ずつ読み上げ、行ごとに作業内容と根拠を確認。所要四十分。
- 村が頼みたい作業のみを残し、ほかは削除。残ったのは、定期バックアップと機器の点検(ファンの異音を含む)。月額は、鬼ヶ島の提示額の三分の一となる。
- 鬼ヶ島より「それでは、基本契約ですが、ひな形は弊社のものでよろしいでしょうか」との発言あり。雉より、村のひな形を用いる旨を回答。鬼ヶ島は持ち帰って検討とし、翌朝の朝会までに、了承の連絡あり。
- 鬼ヶ島より「バックアップの頻度は、どなたが決めますか」との質問あり。村が決める旨を回答。
- 桃太郎より、前回は鬼ヶ島のおやつの時間をもって散会となったため、定例のお茶菓子として、きびだんごを双方に用意する提案。
- 鬼ヶ島へは、九名分を冷凍便で送る。
(三)その他
- 鬼ヶ島の村担当(青鬼。九名のうち、角の根もとがいちばん太い)が、来月末で退職。本人より「月の会社から、内定をいただきました」との報告あり。
- 後任は、次回定例で紹介を受ける。
- 犬は会議中の発言なし。肉球の反応、計十四回。会議後、Slack にて補足あり(別紙、四千字)。
決定事項
- データは返却する。鬼ヶ島のサーバーから村のサーバーへ、今週中に戻す。
- 浦島太郎様の未読メール三万件は、海辺のサーバーへ戻す。既読にはしない。
- 返却後の確認は、犬が夜間に行う。棋譜は、おじいさんが一局目から並べて確認する。
- 村は、村のサーバーと村のデータの保守を、鬼ヶ島に委託する。契約は、株式会社ももたろうが村の代理で結ぶ。内容は、村が承認した範囲と頻度での定期バックアップ(原本は村に残す)と、機器の点検。
- 範囲外の作業は、事前に村の合意を得てから行う。
- 月額は、鬼ヶ島の提示額の三分の一。契約書は、村のひな形を用い、PDF で交わす。
- 株式会社ももたろうは、契約後も村の窓口として、定例を主催する。
- 定例のお茶菓子は、きびだんごとする。鬼ヶ島へは冷凍便で送る。
- めでたし、めでたし。
次回定例:来週月曜 午前十時(定例は継続)
- 鬼ヶ島時間では、午後十時。
- 鬼ヶ島より、夜間の割増料金について「別途、お見積もりです」との発言あり。当社は、本日中に承認する。
以上
議事録はここで終わっていました。
桃太郎は、それを朝会の画面に映しました。犬は肉球の反応を一つ押しました。猿は「月曜の十時なら、起きています」と言いました。雉は何も言わずに、議事録の PDF を共有フォルダに置きました。
猿は会議のあと、蟹に返事を送ったそうです。内容は誰も知りません。
おじいさんは議事録を三回読んで、「船は」と言いかけて、やめました。その週の金曜、棋譜は八百十一局すべて戻ってきました。おじいさんは今も、一局目から並べ直しています。

鬼ヶ島から届いた見積もりは、定例の一時間分だけ、二割五分増しでした。おばあさんは何も言わずに、冷凍便の箱に、夜食用の半分の大きさのきびだんごを九つ添えました。
次の月曜の午前十時、桃太郎は会議を開きました。画面には、黒い四角が三つと、角の下半分が九つ並びました。
顔は見えなくていい。約束は、見えるようにしておこう。
— 第四話 おわり —


