原作:三年寝太郎第四話 / 全四話 ・ 約3分

通知は、朝七時にまとめて届きます。

連載「睡眠負債、返済中です。」

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連載
睡眠負債、返済中です。
テーマ
こころ
読了
約3分
公開
挿絵:夏の朝の寝太郎の部屋で、布団から片手だけ出してスマートフォンの設定を直す、寝ぐせの寝太郎。枕もとには、作業着の父、農協のジャンパーの組合長、役場の名札を下げた健康づくり係の人が、正座で並んでいる。窓の外はあぜ道と田んぼ

放送が終わると、寝太郎の部屋の枕もとに、父と組合長と健康づくり係の人が並んで座りました。係の人はクリップボードを膝に載せ、組合長は首のタオルで汗をふき、父は窓の外のあぜ道を見ていました。

誰も、寝太郎を起こしませんでした。三人のスマートフォンが、十五分おきに鳴っていただけです。

四回目に鳴ったとき、寝太郎が目を開けました。寝太郎は布団から片手だけ出して、父のスマートフォンを受け取りました。画面を何度か押して、父に返しました。かかったのは、一分ほどでした。

組合長が聞きました。

「どうなった」

寝太郎は、もう目を閉じかけていました。

「通知は、朝七時にまとめて届きます」

「おやすみなさい」

係の人は、二つとも、クリップボードにメモしました。三人のスマートフォンは、それきり鳴りませんでした。

その日のうちに、町役場から回覧板が回ってきました。

水田の水位センサーの通知について(お知らせ)

町役場 農林課・健康づくり係

  1. 通知は、毎朝七時に、一通にまとめて届きます(昨夜の水位と、水門の動き)。
  2. 水門は、水位に合わせて自動で開け閉めします。夜間の水見回りは、原則として不要です。
  3. 水があふれそうなときだけは、夜中でも鳴ります。
  4. 防災無線の睡眠スコアのお知らせは、当面の間、六時から七時に変わります。
  5. 窓口の昼休み時間(十三時から十四時)を試行します。
  6. 設置した方へのお問い合わせは、ご遠慮ください(就寝中のため)。

ご理解とご協力をお願いいたします。

母は回覧板に判を押して、隣の家へ回しました。

夜中の通知は、今のところ、一度も鳴っていません。

その夜、あぜ道に、懐中電灯の光は一つもありませんでした。

十一時、父は布団の上で起き上がりかけました。

「水、見て……」

父は、そのまま横になりました。

七時に、通知が一通届きました。

「昨夜の水位:異常はありませんでした」

それから、防災無線が鳴りました。

「おはようございます。昨夜の町の平均睡眠スコアは、八十八でした」

放送は、七時四十分でした。

町の人たちは、その日から、昼ごはんのあとに寝るようになりました。ととのい小屋は、昼寝に使われるようになりました。組合長は昼ごはんのあとに汗を流し、水風呂に入り、外のベンチに座りました。通りかかった近所の人と、目が合いました。

「ととのいました」
「水は、見に行かないんですか」
「七時に、届きますので」

組合長は、そのままベンチで寝ました。

挿絵:夏の昼下がり、集荷場の隣のととのい小屋のベンチや、あぜの木陰で、頭にタオルを載せた組合長や町の人たちが昼寝している

秋になって、稲刈りがありました。父は、稲刈りの前の晩も、朝までよく寝ました。

お米の出来は、例年どおりでした。

十三時を過ぎてから町役場に電話をかけると、留守番電話が出ました。

「ただいま、職員はお昼の休みをいただいております。十四時以降に、おかけ直しください」

受話器の向こうは、静かでした。係の人のスコアは、九十一でした。

挿絵:秋の昼、刈り入れの済んだ田んぼの向こうの町役場。窓口には札が下がり、机の電話の受話器は置かれたまま、職員の姿はない

母は昼ごはんのあとで、親戚のグループ LINE に送りました。

「本日も就寝中です」

返信が、三つ来ました。

「こちらも昼寝中です」
「こちらも昼寝中です」
「こちらも昼寝中です」

三つ目は、おじさんでした。

寝太郎は、今日も寝ていました。睡眠スコアは、百でした。父も、百でした。

睡眠の借りは、睡眠でしか返せない。

— 第四話 おわり —

この連載の話

  1. 第一話本日も、就寝中です。
  2. 第二話睡眠スコアは、四十二でした。
  3. 第三話三年寝て、作業は一日。
  4. 第四話通知は、朝七時にまとめて届きます。

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