放送が終わると、寝太郎の部屋の枕もとに、父と組合長と健康づくり係の人が並んで座りました。係の人はクリップボードを膝に載せ、組合長は首のタオルで汗をふき、父は窓の外のあぜ道を見ていました。
誰も、寝太郎を起こしませんでした。三人のスマートフォンが、十五分おきに鳴っていただけです。
四回目に鳴ったとき、寝太郎が目を開けました。寝太郎は布団から片手だけ出して、父のスマートフォンを受け取りました。画面を何度か押して、父に返しました。かかったのは、一分ほどでした。
組合長が聞きました。
「どうなった」
寝太郎は、もう目を閉じかけていました。
「通知は、朝七時にまとめて届きます」
「おやすみなさい」
係の人は、二つとも、クリップボードにメモしました。三人のスマートフォンは、それきり鳴りませんでした。
その日のうちに、町役場から回覧板が回ってきました。
水田の水位センサーの通知について(お知らせ)
町役場 農林課・健康づくり係
- 通知は、毎朝七時に、一通にまとめて届きます(昨夜の水位と、水門の動き)。
- 水門は、水位に合わせて自動で開け閉めします。夜間の水見回りは、原則として不要です。
- 水があふれそうなときだけは、夜中でも鳴ります。
- 防災無線の睡眠スコアのお知らせは、当面の間、六時から七時に変わります。
- 窓口の昼休み時間(十三時から十四時)を試行します。
- 設置した方へのお問い合わせは、ご遠慮ください(就寝中のため)。
ご理解とご協力をお願いいたします。
母は回覧板に判を押して、隣の家へ回しました。
夜中の通知は、今のところ、一度も鳴っていません。
その夜、あぜ道に、懐中電灯の光は一つもありませんでした。
十一時、父は布団の上で起き上がりかけました。
「水、見て……」
父は、そのまま横になりました。
七時に、通知が一通届きました。
「昨夜の水位:異常はありませんでした」
それから、防災無線が鳴りました。
「おはようございます。昨夜の町の平均睡眠スコアは、八十八でした」
放送は、七時四十分でした。
町の人たちは、その日から、昼ごはんのあとに寝るようになりました。ととのい小屋は、昼寝に使われるようになりました。組合長は昼ごはんのあとに汗を流し、水風呂に入り、外のベンチに座りました。通りかかった近所の人と、目が合いました。
「ととのいました」
「水は、見に行かないんですか」
「七時に、届きますので」
組合長は、そのままベンチで寝ました。

秋になって、稲刈りがありました。父は、稲刈りの前の晩も、朝までよく寝ました。
お米の出来は、例年どおりでした。
十三時を過ぎてから町役場に電話をかけると、留守番電話が出ました。
「ただいま、職員はお昼の休みをいただいております。十四時以降に、おかけ直しください」
受話器の向こうは、静かでした。係の人のスコアは、九十一でした。

母は昼ごはんのあとで、親戚のグループ LINE に送りました。
「本日も就寝中です」
返信が、三つ来ました。
「こちらも昼寝中です」
「こちらも昼寝中です」
「こちらも昼寝中です」
三つ目は、おじさんでした。
寝太郎は、今日も寝ていました。睡眠スコアは、百でした。父も、百でした。
睡眠の借りは、睡眠でしか返せない。









