帝の会社は、この国でいちばん大きな会社でした。帝は、竹林のカフェの行列の評判を、ずいぶん前から聞いていたそうです。
一次面接は人事部の人、二次面接は役員でした。どちらも、かぐや姫の職務経歴を、数字のところまでていねいに読んでいました。二次面接のあと、人事部から、店での働きぶりを一度見学させてほしいと連絡がありましたが、かぐや姫はお断りしました。営業中は、店が忙しいからです。帝の会社の選考は、ゆっくり進みました。最終面接は秋で、場所は本社の最上階でした。帝が一人で待っていました。時間は、三十分でした。
「この会社で、何をしたいですか」
「竹を伐りたいです」
「伐る」
「はい。放置竹林を」
かぐや姫は、ノートパソコンを開きました。
手入れされなくなった竹林は、毎年少しずつ、山や畑に広がっていきます。その竹を伐って、竹炭や器や家具や建材にして売る。伐ったあとの竹林は、歩いて楽しめる庭に整える。人の集まる場所なら、そこを竹林のカフェにする。竹の扱い方は、元竹職人の翁が知っている。カフェの回し方は、かぐや姫が知っている。
帝は、途中から身を乗り出していました。質問は十二ありました。竹炭の原価、器の仕上げにかかる日数、竹林の庭の入場料、雨の日の客数。かぐや姫は、十二とも数字で答えました。帝は、そのたびに手元の紙に書きとめました。
「伐ったあと、竹はどれくらいで元に戻りますか」
「三か月で、大人になります」
「……あなたのことですか」
「竹のことです」
三十分が終わるところで、帝は言いました。
「事業責任者として、来ていただけませんか」
内定は、その場で出ました。年収の欄は、千両ではありませんでしたが、本物でした。帰りぎわ、帝は事業アイデアの資料を一部ほしいと言い、かぐや姫はそれを置いて帰りました。
その夜、かぐや姫は店に戻って、翌日の仕込みを始めました。新人は、閉店の時刻に「お先に失礼します」と言って帰っていました。かぐや姫が、そう教えたからです。仕込みは、山向こうの蟹の庭から届いた柿の皮むきでした。秋の柿のパフェ用です。箱の底には、毎年、収穫を手伝う人の募集のちらしが一枚入っていました。時給は、去年より少し上がっていました。

仕込みを済ませ、竹林の写真を投稿したとき、メールが一通届きました。差出人は、月の会社でした。
月の会社に、応募した覚えはありませんでした。転職サイトにも、月の会社の名前は載っていませんでした。件名は「内定のご通知」でした。
内定通知書は、長いものでした。「採用の理由」の欄に、かぐや姫の仕事が、一つ残らず書いてあったからです。
閉店後の投稿、三百八十六回。うち雨の夜、六十一回。竹筒のドリンクの仕込み、一本あたり十五分短縮。抹茶の値上げのお知らせ、文面の書き直し三回。新人への教え方、同じことを二回でも三回でも。採用の理由の最後には、一行だけこうありました。
「毎晩、
拝見しておりました」
かぐや姫は、自分の記録を開いて、一つずつ照らし合わせました。数字は、全部合っていました。通知書の末尾には、入社日として次の満月の日付があり、「当日は、お迎えにまいります」と添えてありました。
かぐや姫は、カウンターに二通の内定通知書を並べました。帝の会社の通知書には、かぐや姫がこれからできることが書いてありました。月の会社の通知書には、かぐや姫がこれまでしてきたことが書いてありました。どちらも、かぐや姫を高く評価していました。年収は、帝の会社のほうが、少しだけ高い額でした。

計算は、そこまでにしました。かぐや姫は、月の会社に返事を書きました。
「月への転職、決めました」
それから帝に、面接のお礼と、辞退のメールを書きました。資料の使い道は、帝に任せると書き添えました。送ったのは、夜明け前でした。
竹林の上には、満月まであと少しの月が、まだ残っていました。


