春になって、新人が入ってきました。
新人は、竹から生まれて……はいませんでした。求人サイトから、普通に応募してきたからです。大学を出たばかりで、素直で、メモをよく取りました。翁は新人のために、竹のエプロン掛けを一つ作りました。
かぐや姫は、新人に仕事を教えました。抹茶の点て方、竹かごの詰め方、竹の器の洗い方。竹筒のドリンクは、節を一つ残して切ると漏れないこと。縁側の席は、いちばん奥から案内すること。
「かぐや姫さんは、何年目なんですか」
「一年目です」
「え」
「三か月で、覚えました」
新人は、それもメモに取りました。
新人は、三か月では一人前になりませんでした。それが普通でした。かぐや姫は、同じことを二回でも三回でも教えました。教えるたびに、自分が一度で覚えたことの順番が、少しずつ分かってきました。
最初の給料日、新人は「教えてくださって、ありがとうございます」と言って、かぐや姫に竹炭ラテを一杯ごちそうしました。かぐや姫は、それをおいしく飲みました。

その夜、かぐや姫は仕込みを済ませ、竹林の写真を投稿してから、転職サイトに登録しました。
職務経歴の欄には、数字を書きました。週末の行列、バス停まで。店のアカウントのフォロワー、一年で四万人。売上、前の年の三倍。竹筒のドリンクの仕込み、一本あたり十五分短縮。新卒採用、応募三件、採用一名。書き終えると、職務経歴は、思っていたより長くなりました。
希望年収の欄で、かぐや姫は少しだけ手を止めました。それから、新人の初任給を起点に、自分が一年でやってきたことを一つずつ足して、数字を出しました。
登録を終えると、画面に「あなたの想定年収」が出ました。かぐや姫が出した数字よりも、さらに三割高い額でした。かぐや姫は、その根拠を画面の上から下まで探しましたが、どこにも書いてありませんでした。
その夜も、竹林の上には月が出ていました。
翌朝、スカウトが五通届いていました。五通とも、社長本人からでした。
一通目は、石材の会社の二代目からでした。「当社には、成果を正しく見る評価制度がございます」。
二通目は、社用車を百台持っているのが自慢の会社からでした。「年収、千両をお約束します」。かぐや姫は千両を円に直そうとして、やめました。いつの時代の千両かで、値打ちが違いすぎるからです。
三通目は、海外の品を扱う商社の副社長からでした。「当社は、一度も炎上したことのない会社です」。
四通目は、船を何そうも持つ海運会社からでした。「当社は、残業ゼロです」。
五通目は、社員食堂が自慢の会社からでした。「福利厚生の手厚さでは、どこにも負けません」。
どの社長も、かぐや姫の写真の投稿を見て、ひと目で決めたと書いていました。書き出しには、五通とも季節のあいさつが一首ずつ添えてありました。四通目の歌は、字余りでした。
通知は、それからも鳴りやみませんでした。かぐや姫は、仕込みのじゃまになるので、通知を切りました。
かぐや姫は、五通に、同じ返事を書きました。
「この条件が本当なら、
考えます」
それから、一社ずつ、一行を書き足しました。評価制度の会社には「評価シートを見せてください」。千両の会社には「内定通知書を、書面でください」。炎上しない会社には「面接に伺います」。残業ゼロの会社には「夜の九時に、オフィスを見せてください」。福利厚生の会社には「中身を、手に取って見せてください」。
かぐや姫にとっては、どれも無理なお願いをしているつもりはありませんでした。書いてあることを、そのまま見せてもらうだけだったからです。
返事は、一時間もしないうちに、五通とも届きました。五通とも、「ございます」で始まっていました。千両の会社からは、内定通知書は桐の箱に入れて、後日お持ちします、と添えてありました。
その夜、かぐや姫は、翌週の仕込みの表を作り直しました。面接で、店を空ける日が出てくるからです。新人には「来週は、少し忙しくなります」とだけ伝えました。新人は、それもメモに取りました。


