最初に店へ来たのは、石材の会社の二代目でした。二代目は縁側の席に座ると、評価シートを広げました。項目は二十あり、どれも五段階で、きれいに色分けされていました。
「三年かけて、海外の会社を回って作りました」
二代目は、そう言って胸を張りました。
かぐや姫は、紙のいちばん下に小さく書いてある字を読みました。「ひな形 ご自由にお使いください」。何度もコピーを重ねたらしく、字は煤けたようにかすれていました。
「この評価項目は、どなたが決めましたか」
「……ダウンロードした日に、決まりました」
「それまでは」
「社長の、印象で」
二代目は、評価シートをそっとかばんに戻しました。かぐや姫は、二代目に竹炭ラテのお代わりを出しました。
二人目の社長は、百台ある社用車のうち、いちばん長い一台で門の前に乗りつけました。約束どおり、桐の箱を抱えていました。中には、金箔で縁取られた内定通知書が入っていました。年収の欄には、筆の字で「千両」とありました。
かぐや姫が通知書を手に取ったとき、店の戸が開きました。
「こちらに、社長はいらっしゃいますか」
「わたしですが」
「求人広告の制作会社の者です。こちらの内定通知書の件で」
「今でなくても」
「制作費が、まだでして」
男は、請求書を出しました。金箔代、桐の箱代、「千両」の文字のデザイン代と、書いてありました。合計は、千両よりはずっと少なく、かぐや姫の月給よりは少し多い額でした。
社長はしばらく黙ってから、かぐや姫に頭を下げました。
「少しだけ、
盛っておりました」
社長は、制作会社の男と一緒に帰っていきました。桐の箱は、縁側に置いたままでした。翌日から、店の箸立てになりました。

三社目の会社には、かぐや姫が面接に出向きました。副社長は、燃えない仕組みを、海外の会社から高い値段で買ったのだと言いました。社員の投稿は、どれもその仕組みを通してから出すのだそうです。面接はおだやかに終わり、副社長は別れぎわにも「当社は、一度も炎上したことがありません」とくり返しました。
翌日、その会社の口コミの欄が燃えました。きっかけは、副社長が会社のアカウントに投稿した「当社は、炎上しません」の一文でした。副社長の投稿だけは、その仕組みを通していませんでした。
その夜、副社長から、短いメールが届きました。「鎮火まで、お時間をください」。
四人目の社長とは、夜の九時に、本社のオフィスで会う約束でした。ところが、フロアの明かりはすべてついていて、社員は全員、席にいました。
「本日は、たまたまです」
社長はまず、部長に様子を見に行かせました。部長は、戻ってきませんでした。次に行かせた課長も、戻ってきませんでした。社長は、自分でフロアの奥へ入っていきました。戻ってきたのは、二時間後でした。社長の机には、社長の決裁を待つ書類が、嵐のように積もっていたのです。社長は目を赤くして、ひとことだけ言いました。
「残業ゼロは、取り下げます」
五人目の社長は、社員食堂で待っていました。昼の定食は、日替わりで三種類ありました。
「福利厚生は、すべてあの箱に入っています」
社長が指さしたのは、棚のいちばん上の、天井近くにある箱でした。もう何年も、誰も下ろしたことがないそうです。社長は椅子に乗って手を伸ばし、腰を痛めました。それでも、箱の中身はしっかりつかんでいました。出てきたのは、割引券の束でした。どれも有効期限が切れているか、隣の県の店のものでした。
社長は腰を押さえたまま、その束を大事そうに見ていました。かぐや姫は、湿布を一枚差し出しました。

かぐや姫は、五社に、同じ返事を書きました。「ご検討いただき、ありがとうございました」。
閉店後、新人がたずねました。
「面接、どうでしたか」
「五社とも、書いてあったのとは違う数字でした」
「残念でしたね」
「数字が分かったので、残念ではありません」
その夜も、竹林の上には月が出ていました。前の週より、少しだけ丸くなっていました。
週の終わり、六通目のスカウトが届きました。差出人は、帝の会社の人事部でした。


